自分らしく今を生きる!

自ずから収まるところに収まる

ヒトは脳が発達したために余計なことに悩むようになり、治りづらくなった。

 NHKの番組「チコちゃんに叱られる」をみていたら、ヒトの先祖は肉食獣の食べ残した硬い骨のなかの骨髄を食べるために、石を使うことを覚え、そのために親指が発達したということをやっていました。動物のなかでヒトほど親指が太い動物はほとんどいないそうです。

 440万年前、人類の祖先は森の中で果実や木の葉を食べて暮らしていましたが、その後、地殻変動が起きて、森は乾燥地帯に変化します。二足歩行を手に入れた人類の祖先は生きるために草原地帯へと進出します。まだ狩りをする技術はなく、逆に肉食獣の餌食になることを避けながら、おこぼれ(肉食獣が食べ残した骨)を食料とするほかはなかったといいます。

 しかし、骨はあまりにも硬い。硬い骨を割るには道具を使うしかありません。たまたま近くにあった石を手にした祖先はこれで割れば中身が取り出せることを学びます。やがて道具として石を握りしめる習慣ができ、それが親指を太く発達させることになったとか。そのおかげで骨髄を食べるようになったが、骨髄は栄養が豊富なため、意図せず脳の大きさが400ccからおよそ3倍の1000ccに増えたとのことです。現在の人類の脳の大きさはおよそ1500ccです。

 これは、研究者の仮説ではありますが、考えさせられるものがあります。偶然の連鎖が、ヒトの脳の発達を促したという点です。人類の祖先はたまたま肉食獣が食べ残した骨の中の骨髄を食べるしか手がなかった。それが硬かったために、偶然に石を使うことを覚えた。それが親指を発達させた、と同時に骨髄の栄養のおかげで脳の発達も促した。ここまでが偶然の連鎖でつながっているからです。それが、もし、チンパンジーだったとしたら、現在のヒトは存在せず、チンパンジーがヒトたる地位にいたかもしれません。

 ところで、脳が発達したことはよいことなのですが、そのために余計なことでも悩むようになったのではとも思います。このことで、中村天風さん(結核に若いころに罹患し、それを自力で克服、天寿を全うした)の体験談で、興味深い話があったのでご紹介します。天風は、(当時、死の病と恐れられた)結核を治すため、一縷の望みを抱いて、カリアッパ聖者に従ってヒマラヤの秘境で修業をしていたことがあるそうです。聖者の膝の上をみればイヌが一匹。聖者は、ナイフを取り出すといきなり犬の前足をサッと傷つけます。驚いたイヌは叫び声をあげて逃げていきました。しかし、話はそこで終わりません。今度は、天風の右手首を取るやいなや、腕をサッと切りつけます。天風はびっくりして、師に対し「何をする!」と一喝しました。聖者は「イヌとお前と、どちらが先に傷を治すか、やってみよ」と悠然と答えました。すでに重い結核の病を抱えている天風にとって、傷口に雑菌が入れば、それこそ命取りになりかねません。

 傷をかばって、1週間が過ぎたころ、天風は再び聖者の部屋に呼ばれます。聖者の膝には先日のイヌが座っていました。「傷を見せてみよ」といわれ、みせると、傷口は赤く腫れあがり、痛みがありました。「イヌの傷は、もう跡形もなく治っているぞ。お前はどうして治らないのか。」聖者は質問します。

 自然免疫力ではイヌもヒトもそんなに変わらないはずです。にも拘わらず、イヌが早く治り、ヒトの治りが遅かったのはなぜか。それは、ヒトは余計なことを考えて免疫力を落としているからに違いありません。

 ヒトの免疫は7割が腸にあり、残りの3割が心にあるという方がいます。正確には腸以外の臓器や皮膚、粘膜などに3割あるというべきなんでしょう。それが心であるはずがない。全身のリンパ系に残りの免疫細胞が配置されているはずですから。だからこそ、水際で阻止できる仕組みを整えているわけで、そのことを百も承知で、あえてなぜ、心にこだわるのか、それは、自律神経が免疫細胞を動かしているからという点だろうと考えます。たとえば、交感神経の末端からアドレナリンが放出され、顆粒球(好中球)が増えます。その一方で、副交感神経の末端からはアセチルコリンが放出され、リンパ球が多くなります。

 交感神経はたとえば、仕事を始めるについて体を活動的にさせるほうに働く神経です。これに対し、副交感神経は消化吸収を促進させたり、体を休めるほうにはたらく神経です。この消化吸収(副交感神経のはたらき)とそれを元にエネルギーをつくる(交感神経の働き)をコントロールすることは、健康維持にとって、とても大事なことのように思えます。もともと、自律神経をコントロールすることができませんが、自律的に正常な働きをさせることは、訓練によって可能となるようですので、次回はそのことに触れたいと思います。

(参考)

中村天風 怒らない 恐れない 悲しまない 、池田光著、三笠書房、2010.