自分らしく今を生きる!

自ずから収まるところに収まる

なぜ咳がでるのか。

 (1)自分の病を深く理解することの意義について

16世紀フランスの外科医で、アンブロワーズ・パレという人がいます。「我、包帯し、神癒し給う」という言葉を残しています。この言葉はあまりに有名なので、どこかでお聞きになった方も多いと思います。当時、中世ヨーロッパは、キリスト教生活様式に至るまで支配していました。なので、神という言葉を使っていますが、現在に引き直せば、神とはヒトの体の免疫反応のことだと言っていいかもしれません。つまり、病気を治すのは、ヒトの体の免疫反応のほうであって、医師ではない。医師は患者が治ろうとする力を手助けするだけだと言ったような意味合いで理解できるかと思います。

 このことは、我々患者にとって、実はとても大切なことを指摘してくれています。もし、自分はもうだめだと絶望感に浸れば、免疫力は確実に落ちます。ヒトの免疫の7割は腸管にあり、残り3割は心にあるといわれますから、絶望感に浸れば、いくら医師が一人でがんばっても、あるいは治らないかもしれない。逆に、こんなくそ病に負けてたまるかと患者ががんばれば、それだけでも免疫力はそこそこの力を維持するはずです。そう考えれば、自分の体なんだから、医者任せにしてはいけない。医者に言われた通りに養生しているから大丈夫だ、じゃだめなんです。自分の体の状態を一番よく理解しているのは、自分自身なんだから。でも、思っているだけでは、なんら意味がありません。自分が主人公だという思いを持って、不断の努力で体の状態について理解を深めていく必要があると思っています。患者がその気構えを示せば、医者は必ず親身になってくれるはずです。医師と歯車のかみ合った二人三脚が、必ずや病を治してくれると信じています。

 以上のことを踏まえて、ここからは、寅三郎の症例を紹介していきます。寅三郎が経験した範囲で、といった限定はありますが、そこはご理解ください。これまで、先生から直接伺ったり、経験したり、あるいは自ら調べた結果を皆さんと共有して、この病に対する深い理解につなげていきたいと思っております。不明や疑問を生じたら、そこで立ち止まらずに、ぜひ、受け持ちの先生に聞いてみてください。そうして先生に聞いた結果を、ぜひ、この場にお寄せください。このことは、どうしようもなく面倒くさい病を、何度あきらめかけたかしれない、その都度なんとか気持ちを切り替えてがんばってきた、このくそ病を、正しく理解して退治するうえで避けて通れない大切なことだと思っています。

 

(2)一般的説明

―細菌性の肺炎、気管支炎の可能性も考えながら―

咳と似たような現象として、くしゃみがあります。ともに異物が体内に入らないための防御反応ですが、くしゃみは鼻の粘膜が刺激されることで起きるものです。これに対して、咳はその先、喉や、気管、気管支にまで異物が入り込んだときに異物を外に排出しようとして起きるもので、くしゃみよりは一段、深刻な症状ということになります。この点をまず押さえておきたいと思います。

 そのうえで、異物が鼻の粘膜を通過して、その先まで到達したとして、気管支で炎症を起こせば、気管支炎に、その先、肺で炎症を起こせば肺炎ということになります。食べ物に混じって胃に到着したものであれば、強い胃酸の働きでカビは溶かされるのではないかと思うのですが、そこは寅三郎の理解の及ばないところです。

 さて、呼吸器に影響を与える場合として、寅三郎の経験上、気管支炎のときは、咳とともにサラッとした、薄い黄色がかった痰がでることが多く、肺炎のときは、咳とともにドロッとした、濃い緑がかった痰が出ることが多かったように思います。とりわけ、発熱や息苦しさ、体のだるさなどの症状が加わるときは、肺炎の疑いが濃厚となります。早めにかかりつけの医師に相談する必要を考えます。体の中にカビを抱えているだけでも相当の負担です。そこに雑菌の侵入を許したら、大変なことになりますので。

 これら、気管支炎や肺炎の咳は呼吸器に異常がある場合ですが、呼吸器に異常がなくても咳が出ることがあることがあります。そのひとつが、逆流性食道炎による場合です。胃酸は0.3%程度の濃度の希塩酸が主成分といわれています。これはほとんどのものを溶かします。胃は粘膜で守られているため、自ら溶かされることはないのですが、胃と食道の境界あたり、噴門部分の筋肉の締まりが弱いと、特に横になったときに胃の食物が胃酸と一緒に逆流する場合があります(食後、2~3時間は横にならないほうがいいとは、その意味です)。そうすると、胃酸が食道の壁を荒らすだけでなく、それ以外にも食道の知覚神経を刺激して、その刺激が食道のわきの気管の神経にも伝わって、反射的に咳がでることがあるようです。食道と気道とは別々の組織なので、食道が炎症を受けて胸やけがあるのはわかるのですが、なんで咳がでることがあるのですかと、以前にどこかで先生に伺ったことがありましたが、そのときの返事がこれでした。

長引く咳の原因が実は逆流性食道炎にあって、それを治療したら治ったということもあるようです。

 

(3)寅三郎の場合

  寅三郎はこれまで4度の入院を経験しています。最初の入院は雑菌とカビのいずれが原因か不明の中での入院であり、2回目は雑菌を原因とする場合、3、4回目は空洞に水が溜まり、CRP(炎症数値)が大きくなったことを理由とするものでした。肺炎の診断に至る数日前の状況を日誌からひも解いてみました。その結果、激しい咳が数日続き、38度以上の発熱があり、濃い痰がでるといった症状がありました。ここで、熱が出なければ、あるいは肺炎以外の選択肢もあるのではとの期待もありましたが、その期待も発熱によってあっさりと破られました。もちろん、熱が出なくても肺炎の診断が下されることはあります。ただ、この逆に、一度きりでも高熱が出れば、肺炎の疑いが素人目にも高くなるといったことは気に留めておく必要があると考えます。

 誤嚥については、喉の嚥下作用の衰えによるもので、カビとは関係はありませんが、食事の際にたまにせき込むということはありました。誤嚥防止の体操を日常的に行って、飲み込む筋肉を鍛えておくことが有効だと思います。

 意外だったのが、逆流性食道炎によっても、咳を引き起こすことがあると知ったことでした。ちなみに、逆流性食道炎から生じる胸やけはとてもつらいものです。寅三郎は何度も経験しています。まずは水を飲んで、胃酸の濃度を薄めることをやりました。それでも治らないときは、牛乳を飲んで食道粘膜を被覆すること、さらには、市販されている玄米胚芽の粉をまとめて食べることもやりました。対策として、胸やけが起きたときは、日誌に胸やけが起こった旨を記入し、対策と効果をあわせて記録に残しておくと(気になる症状と奏功した対策は、マーカーで色付けしておきました)、今後の参考になります。寅三郎の場合は、市販の玄米胚芽粉をまとめて食べると、つらい食道炎がスパッと収まったように思います。以前は、胃液を抑えるプロトンポンプ阻害剤の処方を長く受けていた時期がありましたが、とても強い薬で、無理やり胃液を止めるだけで、根本治療の薬ではありません。まして、ブイフェンドという強い薬を飲んでいることを考えても、必ず飲まなければいけない薬は別として、できるだけ他の薬を飲みたくない。なので、胸やけの症状がでたときも、薬にこだわらないで治そうと決めています。ただ、定期的に年に一度程度、胃カメラで食道の状態は観察していただいています。

 カビの病を駆逐するうえで、栄養状態を万全にしておくことがぜひとも必要なことです。なので、消化器系に異常があれば、早いうちに治しておく必要があるし、それ以前に病気をつくらないようにしておくことが大事なことだと思っています。