薬剤(小腸から吸収~代謝~分布~排泄)

 ここでは、ボリコナゾール(商品名ブイフェンド)について、薬の働く仕組みについて簡単に触れ、小腸で吸収された後、体から排出されるまでを考えてみたいと思います。

 まず、ブイフェンドが組織で働く仕組みについてです。この薬は、ヒトと真菌の構造の違いに着目して創薬されたものです。ヒトも真菌も核を有する細胞で構成されていますが、細胞を包む膜に違いがあります。ヒトの細胞は主にコレステロールで包まれますが、真菌はエルゴステロールで包まれます。コレステロールと同様の働きをするようです。このエルゴステロールの形成を妨げることに着目した薬がボリコナゾールです。小腸や肝臓での代謝をすり抜けることから、経口薬でも点滴と同じくらいの薬物量が血管内に入っていくようです。また、全身の組織への浸透性も広範囲であることから、よく効く薬であることは確かですが、その分、副作用も半端ないくらいに強い。肝臓はいうに及ばず、視神経への異常を引き起こすこともあります。寅三郎も、幻覚を見ました。副作用であることは事前に伺っていたので、いずれ消失するものとたかをくくって幻覚を楽しんでいたところも若干はありますが(笑)。

 つぎに、小腸の腸管からの吸収から先を考えます。薬の代謝(解毒)に重要な役割を示すのがシトクロムP450酵素(CYP;俗にシップ)です。この酵素は主に肝臓で薬剤の分解(解毒)に働きますが、ほかに小腸や腎臓などの多くの臓器にも存在するといわれています。様々な種類がありますが、そのうち薬の約半数の代謝に関わる酵素がCYP3A4で、小腸と肝臓に存在するようです。

※小腸から吸収

CYP3A4について。たとえば、高血圧の薬の一部、高コレステロール改善薬など、カルシウム拮抗薬を処方されたときに、グレープフルーツジュースを一緒に飲まないようにと、注意書きが書かれていることがあります。これは、グレープフルーツの成分が小腸粘膜上にあるCYP3A4という酵素の働きを阻害することで、薬の分解が進まず、そのまま小腸腸管から吸収されて、最終的に血管に届き、薬の効きが強すぎることがあるようです。

代謝

薬剤は小腸腸管から吸収され、門脈を通って肝臓に運ばれ、今度は肝臓で代謝され、無毒化が図られます。肝臓では酵素(シトクロムP450;鉄を含むタンパク質の一種)が薬物の代謝を担います。代表的な働きのひとつとして、油溶性に作られていることの多い薬に水酸化イオン(OH-)を結合させて、水溶性に変えることで、腎臓から排出されやすくするといった働きがあります。この酵素代謝される薬剤の種類は多く、このため代謝を阻害する(代謝を邪魔する)薬剤があると問題になります。

 たとえば、循環器用の薬もCYP3A4の酵素の働きによって代謝されますが、この酵素の働きを阻害する薬(抗真菌薬、とりわけイトラコナゾール)をあわせて服用した場合、循環器用の薬はイトラコナゾールによって(酵素の働きを)阻害されて、分解が進まず、血中濃度が高くなりすぎるといったことがあるようです。このことは処方薬同士に関わらず、一時的に市販薬も飲んでみようとするような場合にも同様の問題が起こりえます。市販薬だから効果も弱く、大丈夫なはずだではなしに、処方薬を飲んでいる方が、市販薬を合わせて飲む場合は、薬局に事前に確認することが重要です。

※分布

肝臓での代謝を免れた薬は、その一部が血漿(血液の上澄み)に含まれるタンパク質(だいたいはアルブミン)と結合します。結合を免れた残りだけが遊離薬剤となって、薬効を及ぼすことになります。なぜ、タンパク質と結合するのか、薬が組織に働くために油溶性につくられていて、そもそも細胞膜表面に付着しやすい構造になっているためではないかと想像しますが、寅三郎には本当のところはわかりません。ともあれ、これらが肝静脈を通じて心臓に戻り、動脈を通じて全身の組織にゆき渡るようになります。

※排泄

遊離薬剤は、腎臓の糸球体で血液からろ過されて尿として排出されます。では、タンパク結合した薬剤はどこで代謝されるか、文献を漁ってみましたがよくわかりませんでした。おそらくは、腎臓でタンパク結合を解かれて、ろ過されて尿として排出され、タンパク質はろ過されずに血液中に残り、再利用されるといった流れかと思います。ここで、何らかの原因で腎臓の働きが低下していると、再利用されずにそのまま尿中に排出されることがあり、これがタンパク尿といわれるものです。ただ、常に腎臓の病気ということではなく、一時的な不調の場合もこのようなことがあるようですので、過度な心配は無用ということでしょうか。

 薬剤が体外に排出されるもう一つの仕組みが、ウンチです。肝臓で作られた胆汁(消化液)が胆のうで一時貯蔵されますが、胆のうからこの胆汁がでて、十二指腸に排出され、大腸へ送られてウンチのなかに排出されるようです。ウンチの色は胆汁の黄褐色を反映して黄色をしているとか。<(_ _)>

 末尾に、ブイフェンドを長く飲んで真菌が薬害耐性を持つようになったら、薬が効かなくなるのではないかと心配される方も多いと思います。お気持ちはよくわかります。ただ、寅三郎はイトラコナゾールを6年内服して耐性は起きませんでした。それどころか、6年後にはβDグルカンの数値は6以下となり、改善がみられました。それでもブイフェンドに切り替えたのは袋の中のカビが減ることがなかったためです。実際、ブイフェンドに切り替えてから8か月も経過した頃は、袋の中が空っぽになりました。

 この点、コロナウィルスのように、球形の周りにスパイクをたくさん持っている構造であれば、変異はわかりやすいのですが、細胞壁の下にエルゴステロールで覆われた構造を有する真菌が、はたして細胞膜をどう変化させて耐性をつくりだすことができるのか、寅三郎には理解の及ばないところです。もし、そうだとしたら、ヒトの細胞膜だって、真菌に長くさらされるうちに耐性を持ったとしてもいいではないですか。なぜ、真菌は耐性を持って、ヒトの細胞は耐性を持たないのか。調子に乗って言い過ぎた感があります。<(_ _)>。高等動物であるヒトは細胞膜での変異という選択肢を捨てて、免疫システムを採用することにしたのでしょう。先日、耐性を持った真菌細胞を遺伝子操作の働きでリセットし、耐性を失わせることに日本の学者が世界で初めて成功したとの情報を同じ闘病の方から伺いました。5年ほど前に発表された論文だそうです。創薬として期待が持てる成果です。

 ただ、あらためて考えるに、真菌が耐性をもったとしても、鉄を奪えば増殖は妨げられます。また、ヒトの体には本来備わった細胞性免疫と液性免疫があって、これらに常時守られています。先のことを心配してもしかたがない。そうであれば、できることはただ一つ。免疫が働きやすい環境を作ってやること。これに尽きる気がします。

 最後に新薬の開発に向けた話題です。

 急性膵炎の薬で、ウリナスタチンがあって、これを抗真菌薬(アンフォテリシンB)と併用することで、アスペルギローマの空洞内の菌球が消失したとする論文を見つけました。ウリナスタチンは急性膵炎の薬ですが、膵臓は、様々な消化酵素を出す万能の器官で、膵臓が炎症を受けると、これら消化酵素の働きで膵臓自体がダメージを受けます。このため、消化酵素の働きを阻害して、膵臓へのダメージを減らそうとするのが、ウリナスタチンです。アブストラクトゆえ、作用機序の詳細は確認できませんでした。また、論文発表から20年ほどもたって、まだ、深在性の真菌症に対する標準治療に採用されていないところを考えると、副作用など、気になるところがあるのでしょうか。今後の進展に注目していきたいと考えています。

(参考)

ブイフェンド(ボリコナゾール)の作用機序:抗真菌薬 (kusuri-jouhou.com)

シトクロムP450とは? | ネットdeカガク (netdekagaku.com)

CYP(シトクロムP450)による薬物代謝と薬物相互作用について解説 - 薬剤師による調剤薬局の仕事解説 (chouzai-pharmacy.com)

Aspergillus fumigatus から産生されるエラスターゼ(病原因子しての意義と対策)、小川ほか.

抗真菌薬とウリナスタチンとの併用療法が奏効した慢性壊死性肺アスペルギルス症の1例 (jst.go.jp)