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自ずから収まるところに収まる

なぜ痰がでるか

―咳、発熱、痰、だるさといった一連の流れに着目しながら―

(1)一般的説明                                                                                                                       痰は、細菌や真菌の感染の場合を考えてみると、おおまかには咳→発熱→痰→だるさ→回復といったような一つの流れの中に位置付けられるのではないかと、漠然と感じてきました。経験上のことと合致しているからです。もちろん、これらは同時並行的に起きる場合もあります。ただ、少なくとも、呼吸器系への細菌感染に限って言えば、だるさが先にあって、痰がでるといった流れはなかなか想定しにくい。自律神経の乱れとか、あるいは別の臓器がやられれば、そういったこともあるかもしれませんが。このような流れが、免疫の働きからみたときに、どのように説明されるのかを考えてみたいと思います。

 咳→発熱→痰→だるさ→回復といった流れについて考えたときに、まず、「咳」の段階とは気道粘膜が細菌などによって刺激を受けたときに、その刺激が迷走神経(副交感神経)に伝わり、呼吸筋を刺激して、反射的に肺の空気を送り出して、細菌を外に追い出すことで解決を図ろうとします。まずは、外敵を追い出すことで解決を図ろうとするわけです。

 咳の段階を超えて、細菌が組織を傷害する段階になれば、もう追い出しでは効かないことになる。それが「発熱」のステージです。細菌が入り込んだ時に、そういった細菌と最初に出会いを果たすのが好中球や単球です。とくに単球は血管から各種臓器にも入り込んで、マクロファージとなって細菌を丸ごと飲み込み、エラスターゼなどの消化酵素によって細菌を消化して退治することを行います。この細菌と戦っているといった情報は、免疫細胞の働きをよくするために、脳の視床下部に伝えられ、痛みを感じる物質(プロスタグランジン)が作られたり、温熱中枢が刺激されることで熱を上げたりということが行われます。ちなみに、このプロスタグランジンをつくる酵素の働きを阻害すればプロスタグランジンは作られず、発熱や痛みの症状が抑えられることになります。ステロイド剤です。ただ、ステロイド剤を使えば、免疫反応は進まないため、治りがその分遅れることになります。

 次に「痰」のステージですが、単球はマクロファージとなって、自らも細菌を丸呑みしたりもしますが、リンパ球に敵の情報を伝えることもします(抗原提示)。この情報を受けて、リンパ球は抗体を作って、細菌を羽交い絞めにしたり、免疫細胞に食べさせたりして撲滅します。

 この時に、単球のもう一つの重要な働きが、サイトカインという生理活性物質を出して、肝臓でCRPをつくらせることです。つくられたCRPは血清内に放出され、細菌の細胞膜に付着します。そして抗原抗体反応を活性化します。つまり、細菌の破壊が進むわけです。また、CRPは傷害細胞にも付着するようです。参考文献から一部を引用すれば、CRPは「生きている無傷の細胞膜とは結合しないことである。たとえば、無傷の赤血球には結合しないが、赤血球を」酵素処理をして加水分解をしておけば、傷害赤血球はCRPと結合するようになるといった文献があります。ウサギの実験から、心筋梗塞の壊死組織や、炎症部位にCRPが沈着していたとのことです。

 こういった、傷害細胞や細菌の死骸、マクロファージの死骸などが免疫細胞によって貪食され、免疫細胞が持つ粘液とともに外に排出されたものが痰と理解しています。

 このため、白血球が多くなったけれども、まだCRPの値が低いということであれば、最盛期といえますし、白血球が平常時の数値に戻ったけれども、相変わらずCRPの値が高いといったような場合は、炎症の回復期もしくは慢性期と考えられます。

 また、熱と痰との関連でいえば、熱は出ないが痰が出るというときは、痰が出る以上、CRPもある程度は作られているはずです。当然、CRPも一定程度高い値を示すでしょうし、その状態が長く続いているようなら、損傷組織を原因とする慢性の炎症が起きている可能性もあります。これに対し、これまで熱が出ていなかったのに、新たに熱が出たということになれば、今度は損傷組織を理由とするものではなく、新たな細菌感染の可能性がでてきて、いずれジワリとCRPが上昇していくことは想定できるし、痰も増えてくると心構えができます。

   いずれにしても、我々患者は、体調が変化したときは、この各段階を意識して、流れの中で、いまどの段階にあるのか、そして次はどういったことが起きる可能性があるかを想定して生活することが大事だと考えています。

 

(2)寅三郎の場合

感染と回復の流れについて、寅三郎の痰の状態については、「症状の経過と現状」に詳しく触れましたので、こちらをご覧いただければと思います。ここからは、漢方薬の話を少しご紹介します。

 痰が出るのは、細菌や真菌感染のいわば後処理ということを考えれば、体がこういったもの死骸を体内に残すことを嫌がって出す反応であり、これが体内に残っている限りで体のだるさや不調を感じるのであれば、なるべく早く外に出したいと思います。ただ、ここにこだわることは、感染処理を考えたときに、優先順序は高くないように感じます。

 寅三郎は、先生に頼んで清肺湯エキス剤を処方していただいたことがあります。清肺湯の「清肺」には、肺の熱を冷ますという意味があるそうです。具体的には、気道を潤す粘液の分泌を促し、気管支の線毛運動を活性化することで、痰や異物を排出しやすくする効果があるとのことです。ただ、エキス剤は生薬の状態で処方されないため、「精油成分」が飛んでしまって薬効が半減するとも言われます。

 清肺湯という選択肢のほかに、体力を上げることで、痰を出しやすくするように持っていければいいのではと寅三郎は考え、内科医の資格も併せ持つ、漢方の先生に診ていただいたこともあります。脈をみたり、舌を見せたりして、様々に体の状態を見ていただき、十全大補湯がよいだろうと処方いただきました。小分けの袋にいただいたものを薬缶で煮だしてのむのですが、体力を補うのに効果があったように感じました。この病、ブイフェンドだけで治すには限界も感じています。栄養状態、免疫力の向上など全体にパワーを上げていく必要を感じています。その意味では、漢方治療併用も有効な手段の一つに思えます。

※この項目は、CRPがオプソニン作用を有しないという新たな知見を得て、「痰のステージ」の一部書き換えを行いました。CRPが傷害組織にも付着することに着目すれば、本当にそうなのか、まだ十分に理解できないところもありますが、疑問のままに置いておき、いずれ理解にいたるときを待ちたいと思っています。

(参考)

 C-反応性蛋白(CRP)のリガンド結合性のクロマトグラフィー的検討、岸田卓也ほか、炎症、9巻5号、369-374、1989.

  CRPとは何か | 医学博士 Dr.松本のブログ (matsumoto25.net)